二度と書く事のない名前

私は犬の使っているグッズに名前を書いている。
タオルや食器など。
夫が間違って使ってしまう事があるから。
今の愛犬は誰が見ても犬用だと分かる食器を使っていたのだが
先日新しい食器に買い替えた。
それは夫が間違えそうな見た目なので
早速私はその食器に愛犬の名前を書こうとした。
その瞬間、手が止まった。
そして切なく、どうしようもない悲しみが押し寄せた。
犬の名前を書こうとすると
無意識に手が先代犬の名前を書こうとしてしまうのだ。
まだ今の愛犬の名前を書く機会が少なく
動物病院で一度書いた程度。
この十数年、何度も何度も先代犬の名前を書いてきた私の手。
そして手が止まった瞬間、
あぁ、もうあの子の名前を書く事はないのだと実感し
たまらない気持ちになった。
そしてそっと今の愛犬の名前を書いた。
まだこの名前を書く事に慣れない。
だけどこうしてまた何年も過ぎ、私の手が新しい名前を覚えていくのだろう。